September Records

セプテンバーレコードの店主です

横断歩道の青信号

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数年前の寒い夜、それからおよそ一時間後に始まるというゴハン会に誘われました。彼らにとって僕は後回しの人間なんだな、なんてちっとも思いませんでした。地元に友だちが殆どいなかった頃だったので、むしろ’みんな’のリストに名前が挙がったことは嬉しい事件でした。

暖かい色をした壁紙の座敷がある店に着いた頃には、宴は既に中盤で、あれが美味い、これを食べろからはじまり、身の上話から仕事の話、これまで地元の仲間と食事を囲むことが無かった自分にとって、受け入れられている感のなか過ごす時間は、あまり態度には出しませんでしたが、とてもとても楽しかったのです。

誰かを軸に集められた7~8人は、時間もあることだし、この後パフェでも食べてこうと、僕がそのあと一人で行くはずだった、一人でよく行く馴染みの喫茶店へとなだれ込みました。

古くノスタルジー溢れる店構えや、素朴な味わいのメニューは、自分にとって、素直に美味しくて安らげる、貴重な店でした。

みんなはすぐに店を気に入ったようでした。多人数が苦手な僕は、緊張を隠すため、あわよくば、この場のすべての人間に気に入られようと、いつもの自分より、少しおどけることを選びました。

いわばこの店は僕だけのホーム。話は弾み、今後の人付き合いの可能性が見えてきたため、機嫌が良くなっていました。徐々に饒舌になり、発言がエスカレートしてしまったと思います。

時間の進み方がよくわからない空間、すっかり夜も更けてしまい、宴もたけなわ、会計を済ませ外に出ると、「いい店だったね、またこよーっと」と誰かがつぶやきました。

僕は最後のひと笑いが欲しかったのでしょう、咄嗟に「こういう汚い店で、マズいパフェを食べるのも、たまにはいいよね」と口走っていました。

確かにひと笑いは得ましたが、即座に猛省しました。なんで「雰囲気のあるいい店、素朴な味で美味しかったね」というようなことが言えなかったのでしょうか。

横断歩道の信号が青に変わり、みんながそれぞれの方向へ帰って行きました。あんなに冷たい色をした青信号を、それまで見たことがありませんでした。

今になって、こんなことを話しても、誰もあの発言は覚えていないだろうし、最初から気にもしていなかったのかも知れません。でも、いつまでも内省を繰り返し、自己解決出来ないのが自分であり、今の自分を作っているんだなと思います。

深夜に横断歩道の青信号を見ると、胸がキューッとなってしまいます。そんな気持ちになってしまう人や、そんな人の気持ちをわかってしまう人、笑って聞き流してくれる人も、今は周りにいるので心強いな、ということを、ある本を読んで思い出しました。