September Records

セプテンバーレコードの店主です

おとなになれない

頑張って入った高校に制服は有って無いようなものだった。学校の行事がある日以外は、学ランの下だけ履いていれば、上に何を着ていても怒られず、多くの生徒はポロシャツ・パーカーにスニーカーを合わせたり、おのおのが自由な服装で登校していた。


高校一年の秋頃、夏のファッション誌(MEN'S NON-NOだと思う)で気に入っていたスニーカーをやっとのことで買うことができた。足下をそのスニーカーでキメて登校した初日の下校時刻、玄関に行くと自分の靴箱が空だった。パニックになって辺りを探しまくったが、黒地に白いライン輝くスニーカーはどこにもない。履き間違えたと言って戻ってくる人もいない。


まさかこんなことになるとは。受け入れるまでしばらく時間がかかったが、当時人気だったスニーカーだから恐らく盗まれたのだろう。


既に仲の良い友だちは下校済みで気持ちの向けどころがない。今日はこのまま上履きを履いて帰るしかないか、でもやはりその姿を見られるのは恥ずかしい。こんな状況、早く誰かに話を聞いてもらいたいのもあり、校内の公衆電話から親に電話をかけ、車で迎えに来てもらうことにした。


迎えが来るまでの時間、事実報告のため初めて教育指導室を訪ねた。熱血指導で有名だった先生は、短髪黒光りで竹刀を小脇に抱え、80年代のドラマから出て来た様な出で立ちで、ちょっと苦手だった。


独特な圧迫感のある部屋は居心地が悪い。先生はこちらを見ようともせず、「なんだ(ォラ!)?」と書類を見続けている。取りあえず自分のスニーカーが無くなったことを簡潔に説明することにした。


話の途中、先生は、遮るように一言「盗まれるような靴を履いてくるのが悪い」と吐き捨て、こちらを睨みつけた。そしてまた持っていた書類を読み始めた。


こちらが期待してた言葉とは正反対の無関心なセリフを受け、しばらく呆気にとられてしまった。自由の範疇で選んだ靴が盗まれたことは自己責任かもしれないが、それで終わりでいいのかと思った。「それは残念だったな」のような枕言葉くらいで良かったのに、大人になって偉くなると、それさえ使えなくなるのか。


出て行けと言わんばかりの沈黙に部屋を追い出される間際、かなしさと怒りで睨み返すことしか出来なかった。

 

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21年前の成人の日は大雪で、都内に住んでいた僕には帰省するのが難しく、行くつもりじゃなかった成人式を欠席する理由ができて丁度良かった。


成人の日は「おとなになったことを自覚し、みずから生き抜こうとする青年を祝いはげます」ことらしいけど、子供の対義語は"おとな"とは限らないし、成人と"おとな"は同義語とは限らないと思う。この小さな店の中でも、心ない人に揺さぶられ、"おとな"とはなんだ?と思ってしまう出来事が度々ある。本当に"おとな"ってなんなんだ。


二十歳になったら"おとな"扱いをされ、幾つになっても心無い"おとな"風の人に惑わされ、周りから"おとな"になることを強要されるのがこの世。


それでも"おとな"を避けてたどり着く、この世の果てのような所に集まった少数のにんげんは、大多数の"おとな"を俯瞰しながら、"おとな"になんかなりたくないと死ぬまで言い続けることだろう。

 

だから成人式を欠席してバツが悪い思いをしている新成人は、両親に感謝の気持ちを伝えたあと、レコード屋で「バレーボウイズ / 卒業」買うことをオススメしておきます。いつまでも"大人"になれない人たちへも。

 

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